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本山美彦編、本山美彦・妹尾裕彦・村井明彦・鈴木啓史著
「帝国」と破綻国家
――アメリカの「自由」とグローバル化の闇――

ナカニシヤ出版、京都、2005年

本書は、好評を博した『民営化される戦争』(ナカニシヤ出版、2004年)『売られ続ける日本、買い漁るアメリカ』(ビジネス社、2006年)とともに、2002年度よりのゼミ研究会における報告と討論をもとに書かれたものである。第T部は本山教授が、第U部は研究会に参加した大学院生が執筆している。教授の京都大学退職にともない、毎週行われていたこの研究会はやや規模を拡大して2006年5月に月例の「竜鴨山の会」に発展的に解消した。このページでは、本書の主な内容を紹介していきたい。

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    目     次
 はしがき

 第T部 グローバリゼーションの深い闇(本山美彦)
  第1章 「不安定の弧」と「トランスフォーメーション」
  第2章 破綻国家とビン・ラディン・コネクション
  第3章 闇のグローバル化――破綻国家と麻薬取引
  第4章 情報戦とペンタゴンのICタグ開発戦略

 第U部 自由の「帝国」、破綻する国家
  第5章 破綻国家とグローバリゼーション(妹尾裕彦
  第6章 新しい帝国、米国とその危機(村井明彦)
  第7章 communismが陥った罠(鈴木啓史)

 あとがき

はしがき・あとがき

ともにBSE問題を取り扱っており、続きものとして読める構成になっている。明らかなのは、国会でもメディアでも侃々諤々の議論が見られるにもかかわらず、日本の当局は米国の奴隷にされているだけでなく、奴隷となることを嬉々として受け入れているように見えるということである。米国人自らが危険を感じて食べようとしない牛肉を日本人が食べさせられるというならば、われわれは彼らの残飯整理国以下なのであろうか。政府も当局者も、こうした一般国民の疑問に誠実に答えねばならないであろう。

第1章 「不安定の弧」と「トランスフォーメーション」(本山美彦)

冷戦後の主要国軍事支出、武器貿易などのデータを見ていくと、ソ連の軍事生産が縮小した一方、武器が国境を南に越えて、中央アジア一帯に「不安定の弧」を生み出していることがわかる。そして、米国は自国の財政的困難による軍事拡大の限界を、負担の少なからぬ一部を「同盟国」に転嫁することで乗りこえようとしている。近年よく話題に上る「米軍再編」論に、早くも2005年当時すでに世界的な視点からアプローチした論考。

第2章 破綻国家とビン・ラディン・コネクション(本山美彦)

「9・11」については、文明と文明の、あるいは文明と野蛮の対立といった図式で語られることが多いが、一連のイスラム勢力のテロ首謀者と名指されたビン・ラディン一家とブッシュ一家は、非公開投資ファンド「カーライル」を通じてビジネス・パートナーでもあり、こともあろうに、9・11当日、ビン・ラディン家の一人が警戒の続く米国を出国している。限りなく深い世界的エスタブリッシュメントの闇のコネクションの一端を明らかにする。

第3章 闇のグローバル化――破綻国家と麻薬取引(本山美彦)

戦争がマフィアを増殖させる。戦争を利用したマフィアが、政軍複合体(politico-military complex)との癒着を強めて大儲けしている。現在の民族紛争の長期化により、経済がマフィアの餌食となっている。また、米国政府は、アヘン生産の責任をタリバンなどのテロリスト集団に押しつけている。本章では、米国の公的機関や国連の調査資料、公的文書に依存しながら、闇の世界を垣間見ることを試みた。

第4章 情報戦とペンタゴンのICタグ開発戦略(本山美彦)

現在、旅客鉄道会社などの運賃支払い手段として採用されているICタグだが、今後これをとおして市民が管理されていく危険性を持つ。米国では、人体へICチップ埋め込みが許可された。本章では、労働者はもとより、民主党からさえも蛇蝎(だかつ)の如く忌み嫌われている米国ウォールマート社が、軍事の拠点ペンタゴンと結託して、人間の管理にまで手を広げてきたことを明らかにする。そして、資本主義が全体主義を軽蔑できない「アニマル・ファーム」(Animal Farm)への道を歩み始めている情況を明らかにする。

第5章 破綻国家とグローバリゼーション妹尾裕彦

冷戦が終結しグローバル化が進行するなかで、世界システム周辺部には、政府軍と非政府軍との間で交戦が生じたり、国内の一部地域に政府の支配が及ばないなど、国家としてまともな体をなしていない国々が見受けられるようになった。いわゆる「破綻国家」であるが、なぜグローバル化のなかでこうした国々が出現してしまうのだろうか。本章では、武器貿易(モノ)、民間軍事会社=PMF(ヒト)、違法な経済活動(カネ)のグローバルなフローをふまえながら、グローバル化のなかで世界システム周辺部に破綻国家が出現してしまう原因を明らかにし、さらに今後の対応を展望する。

第6章 新しい帝国、米国とその危機(村井明彦)

米国は英国の帝国支配から独立した民主主義国だと広く信じられている。しかし、あえていえばこれは西洋政治学と歴史そのものへの無関心の所産であろう。米国は建国当初より明確に「帝国」を標榜する国であった。この傾向が19世紀末に続き近年顕著になっているのである。ネグリらのイデオロギー的で難解なだけのフィクションとしての「帝国」論に背を向け、一方で政治思想史研究のケンブリッジ学派周辺で生まれた帝国論史(アーミティジらによる)をふまえ、他方で経済・軍事・世論を三位一体とする米国による世界支配の実態の一部を捉えることで、歴史と事実に根ざして米国が帝国であることを示す。

第7章 communism が陥った罠(鈴木啓史)

歴史においては、壮大な大風呂敷を広げたものが「改革者」ともてはやされ、限定的な大風呂敷を広げたものは「抵抗勢力、保守反動」とさげすまれる。その「改革者」とは何か? 自己の立場、論理を地球上に蔓延させる人々である。地域限定的な共同体と共同体がそれぞれの論理を折り合わせることを association、一方の共同体が他の共同体を凌駕し征服している論理を communism と呼ぶ。communism を最終論理として規定したマルクスでさえ、若き日には communism を「悪魔の思想」と批判していた。「共産主義」と邦訳されたこの論理は、理想社会の原理ともてはやされた。しかし、その実態は他の共同体を凌駕し征服していく論理でしかなかった。旧ソ連に勝利したアメリカは国内的には多様な社会であるためもっとも communism を嫌ってきた。しかし、結果的にはアメリカは世界にアメリカ communism を蔓延させる「最新の・新しい communism」になっている。本章は、エレン・メイクシンズ・ウッド『資本の帝国』が語りきれなかった隙間を埋める研究である。資本主義論、社会主義論を軸に、カール・マルクス説とP.J.プルードン説の対比(特に「株式会社論」、「パートナーシップ」)から見えてくるものを中心に、これからの「アメリカ communism の運命」を描いた。